「真夜中の探偵」の感想。

 まだ書いてなかった、「真夜中の探偵」の感想みたいなやつ。
 前作「真夜中の喇叭」の後、大阪に戻ったソラ。
 お母さんを探すべく探偵になることを決意したものの、毎日生活のためのバイトで疲労している。
 諦めかけていた矢先、両親の依頼人であった押井たちが接触をしてくるが、その屋敷で出会った元探偵が、押井の別宅の木箱の中で溺死する事件が発生する。

 前作の完全なる続きで若い世代向け。
 どの辺がそう言わせるかと言うと、ソラが尾行を恐れて変装とかするわけです。それから連れて行かれたところが金持ち。殺人現場にもすんなり入れるし、そういう浅くて非日常的な展開は少年探偵団のよう。話もあまりひねりがなく結構簡単に話が進み、トリックもそう悩まずに到達できる。
 通常の大人向けの本では普通あり得ない、いわゆるご都合主義的なところに大人は違和感を感じるかもしれない。けれどまだ首までどっぷりミステリに漬かっていない、発展途上の少年少女であれば、ソラが次々に直面する非日常の面白さを堪能できると思う。

 回想で母親がソラに向かって言う、「本当に怖かったり、辛かったりる時に、その原因となることは過ぎ去っている。だから怖がらなくていい」というセリフに涙がこぼれる。
 自分がこの部分を読んだのは、ボランティアのため大船渡市に向かうバスの中。
 毎日、何もなくなった陸前高田と崩れた大船渡の街を見ながら通っていたから、尚更ホッとした。津波の残した跡は大きいけれど、その原因は去ったのだから、流された街を見ても怯えなくて良い。
 余震はあるかもしれないし、大変なことはたくさんある。けれど、その怯えて縮こまった手足と心は伸ばしたって良いはずだよ、と言われている気がした。
 まだ判らない不確定な未来に怯えるのではなく、立ち向かうだけの勇気をソラは持っている。
 瓦礫は片付ければ綺麗になる。壊れた町は立て直せば前よりもっと良くなる。けれど人の心は物理的には直せない。だからこそ、ソラの勇気を通じて、有栖川先生は被災地と日本中いや、世界中に住む人を勇気づけてくれているのだ。 続きを読む>>