名前のない短文。

 毎年書こうと思って、いつも為し得ない七夕のお話。
 一日遅れで、小説としてUPする訳でもないけど(そして推敲もしてないけど)書いてみた。
 カテゴリーもないので「Web」にしてみた。
 ホントはもっと明るい話にしたかったんだけど・・・
 勿論彼らの話です(笑)


 街灯に笹飾りが下がった。
 商店街を盛り上げるための策らしいが、薄いビニール製のささやかなそれはあまりにも貧弱で、風雅などとはほど遠い。ましてやこの梅雨時期に七夕は不似合いだった。
 「織姫じゃなくて良かった」
 毎年この日が来ると、そう言って涙を浮かべたあの表情を思い出す。
 旧暦の七月であれば梅雨も明けるはずだが、新暦では梅雨の真っ直中であり、晴れを見込めるはずもない。知っていながらなおも純粋なその感情に、柄にもなく「彼らは幸せなはずだ」と慰めの言葉など掛けたりした。
 後に、雨が降り天の川が増水して渡ることが出来なくなると、哀れんだカササギがその体で橋を架けくれるというのを知った。
 それを伝えた所、本気でホッとした表情をし、「元はと言えば、結婚して舞い上がって、自分の仕事を放り出した二人が悪いんやけどな!」と尤もなことを言ったのだった。
 けれど、その後小さく微笑んだのが忘れられない。
 自嘲気味なその笑みに隠された苦悩。
 悩むことそのものが罪悪だと感じていた君。
 どうしてもっと理解してやれなかったのだろう。
 どうしてもっと言葉を尽くせなかったのだろう。
 会った時に見せる表情で心の全てが判るはずもないのに、互いの絆を過信していたのかもしれない。
 笹の葉で切れたように、ちくちくと体の何処かが痛む。
 この気持ちの存在も、この気持ちの正体も、何一つ伝えられないまま失ってしまった。
 近付くだけで、永遠に重なり合うことのない二つの星。
 あの時、自分たちがそれと同じであることを無意識のうちに知ってしまった。それ故の涙だったのかもしれない。
 今となってはその真意を確かめる術はない。
 「今年もカササギの出番だな」
 鼻先を掠めた雨粒に独り呟く。
 緩いネクタイをさらに緩めながら、ただ足を速めるのだった。

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